情報発信

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2023.07.20   情報発信

スタッフの「自主練」は労働なのか

はじめに

2022年11月下旬に、一般の方が牛丼チェーン「すき家」で行われた接客自主トレーニングの様子を動画で投稿し、注目を浴びました。深夜に店舗の駐車場で半袖で配膳接客のトレーニングを行い、上司が指導している光景が拡散され、それによって「すき家はブラック企業なのでは」といった憶測が広まる事態となりました。実際には、今回の出来事は「スタッフ自らが社内コンテストに向けて自主的に練習を行った」ということでしたが、その厳しいトレーニングの様子が否定的に捉えられる人もいたようです。

「自主練」は、技術職などトレーニングが必要な職種において行われるものですが、その時間が労働時間に含まれるのか、また自主練に関する労務管理上の注意点について考察してみたいと思います。」

 

自主練と労働

自主練が労働時間に含まれるかどうかを考えるためには、「労働時間とは何か」ということを理解する必要があります。労働時間の適正な把握に関するガイドラインによれば、労働時間とは使用者の指揮命令下で働く時間であり、使用者からの明示的または暗黙の指示に基づき業務に従事する時間が労働時間に該当します(たとえば、業務上の義務として参加が求められる研修や教育訓練の受講、業務に必要な学習などを行う時間は労働時間に含まれます)

つまり、その自主練に直接的または間接的な強制力があったかどうかが判断の基準となります。ただし、自主練に参加することが人事評価に影響する場合など、直接的な強制ではなくとも労働時間として考慮される可能性があります。逆に言えば、自主練が労働時間に含まれないようにするためには、強制的ではなかったことを証明するための記録(たとえば、自主練のための施設利用申請書を提出するなど)を検討する必要があります。

 

安全配慮義務

一方、会社は労働者に対して「安全配慮義務」を負っています。労働契約法第5条によれば、「使用者は労働契約に基づき、労働者が自身の生命や身体の安全を確保しながら働けるように、必要な配慮を行わなければならない」と規定されています。したがって、自主的なトレーニングであっても、職場における安全配慮義務からは逃れることはできません。

今回のすき家の自主練動画を見る限り、寒い気温4度の中での練習が行われたことから、安全配慮が不十分だったという指摘がされる可能性があります。

この事件が一般人のツイッター投稿をきっかけに広まったことを考慮すると、「行き過ぎた自主練は広まり、企業の評判にリスクをもたらす可能性がある」ということを企業は予想して考慮しなければなりません。

 

現実的な対応

このような出来事はしばしばイデオロギー論争の議題として利用されます。労働者保護を重視する人々からは「パワハラだ」「ブラック企業だ」といった非難の声が上がりますが、一方で精神論者からは「本人が望んでいることをなぜ制止するのか」といった反論が出されます。

今回のすき家の事例は、スタッフのモチベーションを高めるための「社内コンテスト」という取り組みがうまくいった結果とも言えます。しかし、同時にそれによって新たな「評判リスク」も浮上しました。

企業側の現実的な対応策としては、「過度に行き過ぎないようにコントロールする」ことが重要ではないでしょうか。自主練を強制せず、前向きな訓練を支援する一方で、過度な熱中を防ぐためのケアも行うという、バランス感覚を持った労務管理体制が求められるでしょう。

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