情報発信

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2023.08.28   情報発信

定年再雇用の際の賃金減額はできるか

初めに

今年の7月に、名古屋市にある自動車学校の元社員が、定年後に再雇用される際に基本給などが大幅に減額されることが違法だとして、定年前との差額分の支払いを求める訴訟の最高裁判決が出ました。この判決は、高齢化が進む日本において、定年再雇用時の給与設定が重要な経営課題となることを浮き彫りにしました。以下では、この裁判の内容を踏まえつつ、定年再雇用における賃金減額について解説いたします。

裁判の概要と争点

この自動車学校においては、定年後の再雇用に際して、基本給やその他の手当について、以下の表に示されるような違いが見られました。

給与等 定年前(正社員) 再雇用後(嘱託)
基本給 一律給+功績給 勤務形態によりその都度決める
家族手当 あり なし
皆精勤手当 あり あり(減額支給)
敢闘賞(歩合) あり あり(減額支給)
賞与 年2回 原則なし

原告たちは、役職の違いはあるものの、再雇用後も引き続き教習指導員として働いていました。ですから、仕事の責任が変わったわけではありませんが、賃金が削減されたことを訴えました。

この裁判において焦点となっているのは、「有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁止する」という考え方です。これはかつて労働契約法20条に含まれており、2020年4月以降はパートタイム・有期雇用労働法に統合されて規定されています。この「同一労働・同一賃金」という観点で、支給されている基本給やその他の手当が同じ性質を持つものかどうかが争点となっています。

一審、二審と最高裁判決

地裁と高裁においては、「基本給や賞与を60%未満に削減するのは違法である」といった、労働者に有利な判断が下されました。また、「皆勤手当が減少されるのは違法だ」という判決もありました。しかしながら、最高裁は「より具体的な給与の性質や差異の目的、他の事情を総合的に考慮して、その労働条件の差異が不合理であるかどうかを判断するべき」との見解を示し、高裁に審議を差し戻す判決を下しました。

注目のポイント

高裁の判決においては、「仕事の内容が変わらずに、定年退職時の基本給がその60%以下に減少することは、労働契約法20条に違反する不合理な状態である」と結論づけました。

しかしながら、最高裁の見解では、「正職員の基本給は、単に勤続年数に基づく年功給の性格だけでなく、職務の評価に基づく職務給の性格もある。一方で嘱託職員の基本給は異なるカテゴリで考えられており、異なる性格や支給の目的を持っている。加えて、労使協議の経緯も充分に考慮されていない。基本給が60%を下回るだけで必ずしも違法とは言えない。より深く検討すべきである」とされました。

性質・目的と労使交渉の経緯

最高裁の判決において、給与の減額が不合理かどうかは、それぞれの給与の「性質」「目的」「労使交渉の経緯」に基づいて考慮すべきという見解が示されました。

要するに、定年前後で給与に差を設ける際には、給与の性格や目的の違いを明確に定めることが重要です。そして、一方的な決定を避けるために、事前に労使で話し合いや交渉を行うことが大切と言えるでしょう。

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